高田亮介 | 公的機関データに基づき作成
残価設定型住宅ローンとは?月々返済と残価リスクを比較【2026】
残価設定型住宅ローンとは、住宅の将来の売却価値を「残価」として据え置き、残価を除いた部分を 返済していく住宅ローンです。自動車の残価設定ローンに似ていますが、対象は数千万円の住宅で、 返済期間も数十年に及びます。毎月返済額を抑えられる一方、完済時に住宅ローン残高がゼロになる一般的な住宅ローンとは設計が異なります。
住宅価格の高騰とローンの長期化を背景に、住宅金融支援機構は2026年3月から 「特定残価設定ローン保険」を創設しました。国土交通省の公式例では、6,000万円を借りる場合、 通常ローンの毎月返済額16.1万円に対し、残価設定型は14.2万円です。しかし、残価設定型には 1,800万円の残価が残り、最終的に物件売却などで精算します。本記事では、月額の安さだけでなく、 総支払額、売却、相続、住み続ける場合の注意点まで比較します。
住宅金融支援機構の制度は、利用者へ直接保険金を支払う商品ではありません。機構と提携する金融機関が 提供する残価設定型住宅ローンについて、残価の未回収リスクを機構の住宅融資保険で支える仕組みです。 商品内容、金利、販売開始時期、対象住宅は金融機関によって異なります。
残価設定型住宅ローンの仕組み
一般的な元利均等返済では、借入元金と利息を毎月返し、返済期間の終了時に残高をゼロにします。 残価設定型では借入額を「返済期間中に元金を返す部分」と「残価として据え置く部分」に分けます。 据え置いた残価部分は元金を減らさず、利息だけを払い、死亡や住み替えなどの時点で住宅を売却して 一括返済するのが基本です。
| 項目 | 通常の住宅ローン | 残価設定型住宅ローン |
|---|---|---|
| 返済する元金 | 借入元金の全額 | 借入額から残価を除いた部分 |
| 返済期間終了時 | 原則として残高0円 | 残価部分が残る |
| 残価の精算 | なし | 売却代金などで一括返済 |
| 毎月返済額 | 元金全額を返すため高め | 残価を据え置くため低め |
| 住宅の保有 | 完済後もそのまま保有しやすい | 売却を前提にした商品設計が中心 |
たとえば6,000万円のうち1,800万円を残価に設定すると、35年間で元金を返す対象は4,200万円です。 月額が下がる理由は金利が安いからではなく、35年間で返す元金を1,800万円少なくしているからです。残価は免除されるわけではなく、住宅という資産とセットで将来へ繰り越されます。
6,000万円の公式試算|月1.9万円軽くなる
国土交通省のリーフレットでは、35歳で6,000万円を借りるケースを比較しています。 通常ローンは35年・年0.7%です。残価設定型は、4,200万円を35年・年0.8%で元利均等返済し、 残価1,800万円には年1.8%の利息を払う条件です。金利条件が同じではないため、制度の仕組みを 理解するための試算として確認してください。
| 比較項目 | 通常ローン | 残価設定型 |
|---|---|---|
| 借入額 | 6,000万円 | 6,000万円 |
| 35年間で返す元金 | 6,000万円 | 4,200万円 |
| 据え置く残価 | 0円 | 1,800万円 |
| 35〜70歳の毎月返済 | 16.1万円 | 14.2万円 |
| 70歳以降 | 返済終了 | 残価部分の利息2.7万円/月 |
| 公式資料の総返済額 | 6,767万円 | 6,502万円+物件の売却代金 |
現役期の返済額は月1.9万円、年22.8万円軽くなります。35年間の単純合計では約798万円の キャッシュフロー差です。しかし70歳時点でも1,800万円の残価があり、70歳以降は売却まで 月2.7万円の利息を払い続けます。87歳で死亡する公式例では、残価設定型の総返済額は 6,502万円に加えて物件の売却代金です。
残価設定型の6,502万円には、住宅売却で精算する残価部分が含まれていません。通常ローンは35年後に 残高がゼロになり住宅が手元に残りますが、残価設定型は住宅を売却して残価を返す前提です。 月額の差は値引きではなく、返済の一部を将来へ移した結果です。
残価設定型住宅ローンの3つのメリット
1. 子育て期の毎月返済額を抑えられる
30〜40代は住宅費に加えて保育料、教育費、車、育休・時短による収入減が重なりやすい時期です。 月1.9万円の差なら年間22.8万円を教育費や生活防衛資金へ回せます。ただし、下がった分を使い切るのではなく、 将来の住み替え費用や金利上昇に備えて積み立てることが前提です。
2. 売却価格が残価を下回るリスクを保険で支えられる
住宅金融支援機構の保険制度を利用した商品では、残価以外の部分を完済し、残価だけが残った段階で 実際の売却価格が設定残価を下回っても、原則として差額を追加請求しない仕組みが示されています。 住宅の価値が想定より下がった場合の不安を抑え、死亡や住み替え時の売却を進めやすくする狙いです。
ただし、返済途中の債務不履行や、保険制度を使わない独自商品まで無条件に対象になるわけではありません。 「ノンリコースになる時点」「延滞時の扱い」「売却手続き」「仲介費用の負担」は契約前に確認が必要です。
3. 長く使える住宅の価値を意識できる
残価を設定するには、将来も一定の価値が見込める住宅であることが重要です。国土交通省の資料では、 融資対象住宅について一定の耐久性と維持管理の確保が必要とされています。立地だけでなく、長期優良住宅などの 性能、点検・修繕履歴、間取りの汎用性、売買事例を確認するきっかけになります。
契約前に理解したい6つのリスク
1. 最後まで住み続けるには残価を別途返す必要がある
70歳以降も同じ住宅に住み続けたい場合、残価を自己資金で一括返済する、借り換える、利息を払いながら 返済を先送りするなど、商品ごとの対応が必要です。老後に1,800万円を用意できなければ、本人が希望しても 売却を選ばざるを得ない可能性があります。「終の住まい」として家を残したい人には大きな制約です。
2. 相続人へ住宅をそのまま残せるとは限らない
死亡時に売却して残価を精算する商品では、配偶者や子どもがそのまま住み続けることを前提にできません。 団体信用生命保険がどの部分を保障するのか、相続人が残価を返済して住宅を取得できるのかは、金融機関の 商品条件によって異なります。相続財産として住宅を残したい場合は、通常ローンとの比較が欠かせません。
3. 残価部分にも利息がかかる
残価1,800万円は元金が減らないため、売却まで利息が発生します。公式例では残価部分の金利は年1.8%で、 70歳以降の利息は月2.7万円です。70歳から87歳まで17年間払えば、単純合計で約551万円になります。 長く住み続けるほど利息負担が増えるため、月額だけでなく「何歳で売却する想定か」を決めて総支出を比べます。
4. 売却代金を老後資金として自由に使えない
通常ローンを完済した住宅なら、売却代金から諸費用を除いた金額を住み替えや介護費用へ使えます。 残価設定型では、まず売却代金から残価を返します。売却価格が残価を上回った部分は手元に残せますが、 不動産仲介手数料、登記費用、引越し費用、新居費用も必要です。売却価格全額を老後資金にできるわけではありません。
5. 対象住宅と維持管理に条件が付く
将来価値を前提にするため、すべての住宅で同じ残価を設定できるとは限りません。一定の耐久性・維持管理が 求められ、定期点検や修繕、指定された維持管理計画への対応が必要になる可能性があります。 購入価格だけでなく、35年間の修繕費と管理の手間も確認してください。
6. 金利・手数料・残価算定方法が金融機関ごとに違う
住宅金融支援機構の保険は金融機関の商品を支える制度であり、利用者向け商品の条件を一律に決めるものでは ありません。返済部分と残価部分の金利、事務手数料、残価率、対象住宅、途中売却の扱いは金融機関ごとに 異なります。残価率が高いほど月額は下がりますが、将来へ残す元金は増えます。
通常ローンと残価設定型、どちらが向いている?
| 判断軸 | 通常ローンが向く | 残価設定型を検討しやすい |
|---|---|---|
| 居住計画 | 完済後も長く住みたい | 老後に住み替える予定がある |
| 相続 | 家族へ住宅を残したい | 住宅を売却して精算してよい |
| 現役期の家計 | 全額返済でも余裕がある | 教育費と重なる時期の月額を抑えたい |
| 老後資金 | 完済住宅を資産として持ちたい | 別に老後資金を準備できる |
| 物件 | 自分の好みを優先したい | 耐久性・流通性の高い住宅を選べる |
| 将来の柔軟性 | 売却時期を決めたくない | 売却時期と住み替え計画が具体的 |
残価設定型は「通常ローンでは買えない価格の家を買うための仕組み」と考えないことが重要です。 通常ローンで返せない借入額を、残価設定型の低い月額だけで判断すると、老後の売却や金利上昇に家計が 耐えられません。まず通常ローンの返済額を安全に払える物件価格まで下げ、そのうえで現役期と老後の キャッシュフローを調整する選択肢として比較します。
50年ローンとの違いも重要です。50年ローンは元金全額を長期間かけて返しますが、残価設定型は一部の元金を 最後まで据え置きます。詳しくは50年住宅ローンと35年ローンの比較も確認してください。
契約前に確認する10項目
- 設定される残価はいくらで、購入価格の何%か
- 残価の算定根拠と、将来の再評価があるか
- 通常返済部分と残価部分、それぞれの金利タイプと適用金利
- 事務手数料、保険料、保証料、売却時費用を含む総コスト
- 残価以外の部分を完済する年齢と、その後の利息負担
- 住み続けたい場合に残価をどう返すか
- 死亡時・相続時に住宅と残価がどう扱われるか
- 途中で売却・借り換え・繰上返済する場合の条件
- 売却価格が残価を下回ったとき、追加返済が不要になる要件
- 必要な住宅性能、点検、修繕、維持管理の条件
金融機関から見積もりを取るときは、同じ物件価格と頭金で「通常ローン」と「残価設定型」の両方を依頼し、 35年間の毎月返済額だけでなく、70歳時点の残高、70歳以降の利息、想定売却価格、売却費用まで並べます。 頭金を変えた通常ローンとの比較は頭金0・1割・2割の総返済額比較も参考になります。
物件価格・頭金・金利・返済期間から、残価を使わない場合の毎月返済額と総利息を計算できます
通常ローンの返済額を先に確認するで試してみるまとめ
残価設定型住宅ローンは、将来の住宅価値を残価として据え置き、現役期の毎月返済額を抑える仕組みです。 公式例では6,000万円の借入れで月16.1万円から14.2万円へ下がりますが、1,800万円の残価が残り、 70歳以降も売却まで利息を払います。月額が下がる代わりに、住宅の売却と残価返済を将来へ残すという交換条件です。
老後の住み替えが具体的で、住宅を相続財産として残す必要がなく、対象住宅を適切に維持できる人には 選択肢になります。一方、同じ家に住み続けたい人、家族へ住宅を残したい人、売却時期を決められない人は、 通常ローンのほうが計画を立てやすいでしょう。契約前には通常ローンの返済額を基準にし、残価・金利・ 売却費用を含めた生涯の住居費で比較してください。